空手は武道、スポーツ、精神修養、更に健康法、そして他にも様々な形になる形態に成りうる多様性を内包しています。
そして東京オリンピックの競技種目にも選ばれて、ますますスポーツ化に拍車がかかっている現在は、スポーツ空手が注目を集めています。
そのため、組手試合では型からの技は使われることがないため型と組手は別もので、型は試合や審査のために単に順序や技を覚えるものとして、軽視する人が増えています。
しかし、実際は空手の型にこそ、生死を賭けた「実戦の技」が集積されていて、力に頼らない自然体を技とする武技が無限に秘められているのです。
実際に、空手の稽古は先ず型から始め、技を身につけて組手の稽古で術として体得していきます。
そうした型の稽古を通して、技から術へ、術から理へ、理から道へと、型の声なき声を聴き、無我の境地が得られるのです。
その中でも空手の型の「基本型」であるナイハンチ(ナイファンチとも鉄騎とも呼ばれている)は数多くの名人、達人が「空手の型はナイハンチに始まりナイハンチに終わる」といってこの型は重要視されているのです。
そこで今回は、これから空手を始めてみようと思っている人、すでに空手を経験しているが伸び悩んでいる人、型と組手は別物と思っている人などのために、ナイハンチの秘められた意味を解明してみます。
空手の「基本型」ナイハンチの秘められた意味!
空手は沖縄に始まり、大きく分けて首里手・那覇手・泊手の三つの異なった流儀からなると伝えられています。
それぞれにその流儀の特色を示す鍛錬型が伝えられており、那覇手では三戦であり、首里手・泊手のナイハンチ(=ナイファンチ)となっています。
特にナイハンチ(=ナイファンチ)の型は空手の「基本型」として最初に習いますが「首里手における身体操作から技法に至る全ての秘密が秘められている」と言われています。
ナイハンチ(=ナイファンチ)の型は基本の立ち方であるナイハンチ立で、その姿勢をくずさず、横一直線上の演武線を移動して、左右同様の攻防の技法を展開するシンプルな型です。
そのシンプルな型は、まずその足構え(ナイハンチ(=ナイファンチ)立ち)を基礎としての優れた身体の運用技術が、とても及びもつかない術の世界へ到達させてくれるのです。
人の身体は自分の思い通りにはとても働いてくれぬものであることはご承知のことと思います。
それをただ動くのではなく、精妙な“術”と呼べるほどのものとして動けるようにしてくれるものが、その足構えを基礎とした術理術法に則ったナイハンチ(=ナイファンチ)なのです。
その結果、空手の呼吸法、手、足、腰の空手技法の基本的な土台と、空手をやるうえの空手力がつくられていき、武道精神、丹力が養成されていくのです。
ナイハンチ(=ナイファンチ)の型は「武道身体の基盤作り」
空手の初心者は、基本のその場突きと同時にナイハンチ(=ナイファンチ)の型を稽古しましょう。
前にも述べましたが、ナイハンチ(=ナイファンチ)の演武線は横一直線で閉足立ちから始まり移動は並足で左右に三回、その他の立ち方はナイハンチ(ナイファンチ)立ちだけのシンプルなものです。
従って、武道の予備知識をまったくもたない初心者が型の手順と挙動を覚えるのはそれほど難しいものではありません。
この型は非常にシンプルですが、その内容は変化応用に富み、そのため沖縄では古来より、基本型でありながら実戦型と言われてきました。
しかし、初心者であるあなたは教えられたとおりに型を修練してみても型の外見上からは、とても実戦に通用する技や術があるとは感じられないでしょう。
やさしいのは「外に現れている動作」で、むずかしいのがその挙動を支配している「見えない部分」で、ここに武道として実戦に通用する技や術の奥儀が秘されているのです。
従って、ナイハンチ(=ナイファンチ)は武道の予備知識をまったくもたない初心者が型の動作を行う事により、型でとられる姿勢の中から自然に正中線や正中軸を造り上げ、そこから更に力とスピードを生み出す武道身体の基盤作りのための自己の身体の探求と、練りを実に有効に進めてくれるといえます。
空手型として意味不明なナイハンチ(=ナイファンチ)
ナイハンチ(=ナイファンチ)が空手型として意味不明な点が、武術の実戦の技法に直結した技の活用法(=分解)をあまり重視していないところです。
例えば柔道では、まず最初に習うものが受身であり、それから基本の技を習う、といった様に、最初から試合に直結した受けや攻撃に通じる技を学びます。
空手が他の武術や格闘技とは異なった概念として「空手独特の威力とスピードを先に学ぶ」という独自の思想によって自己の動きと感覚の創りから始めるためにナイハンチ(=ナイファンチ)の型が基本即奥義として存在しているのです。
このようにナイハンチ(ナイファンチ)によって練り上げた空手独特の威力とスピードという武術的効果が空手という武道には必要不可欠のものなのです。
この隠されている型の技や術といった「外に見えない内」の重要さに気づかせてくれるのが、この型ということになります。
ナイハンチ(ナイファンチ)の型にはそうした一瞬の“瞬殺”に似た動きを生み出す訓練が短く簡単な動作に収められているのです。
そして、ナイファンチは「真半身」を基本として、身体を最大限に駆使して術技的に最強の武道的身体を創り上げるのです。
そのためには、正中線軸をしっかり捉えて、それを崩さないようにするために、入り身、浮身、無足の法そして丹田などの、言葉としてはありますが、実在してないものをあるが如く意識できるようにしなけれがなりません。
この実在しない身体の運用技法が認識できるようになり身につくと、身体全体が一つになって動くため、技を出したという結果だけが認識されるが、その動作過程は相手には認識されずに、技が目に捉えることができなくなるのです。
こうした理論化された武道的身体を型として完璧に追究することで三位一体の心技体が実戦以前の稽古の場で出来上がり、実戦にも耐えうるものになります。
空手の型 ナイハンチ(ナイファンチ)は我流の体力や素質まかせの力技の無意味さが無駄であることを分からせてくれるとともに、秘されている奥義によって武道を極め達人となる事も夢ではなくなるのです。